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2023/05/13 21:25


「バラココーヒー」は、ただのコーヒー豆の種類ではなく、フィリピンに根付く文化と深く結びついた、特別なコーヒーです。リベリカ種コーヒーを元に生まれたこのコーヒーは、フィリピンの農業の伝統と、フレーバー豊かなコーヒーを好むフィリピン人の文化が融合して作り出された深い歴史を持っています。この記事では、バラココーヒーの複雑な歴史や文化的意義、そしてフィリピンのコーヒー文化について、詳しく探求していきます。

「バラココーヒー」とはどんなコーヒー?

「バラココーヒー」とは、フィリピンのバタンガス州やカビテ州で栽培されている希少なコーヒーの一種で、カペン・バラコやバタンガス・コーヒーとも呼ばれます。コフィア・リベリカ種に属し、とがった大きな豆とアニスシードを思わせる強い味と香りが特徴です。かつては主要な輸出品目でしたが、他品種との競合やコーヒーのさび病により生産量が減少しました。リベリカ種はコーヒー三大原種でありながら現在も生産量が極めて少なく、消費量は世界全体の流通量の1%にも満たない希少なコーヒーです。バラココーヒーはその独特な味わいを愛するコーヒー愛好家に人気がありますが、フィリピン国外にはほとんど流通しておらず『幻のコーヒー』とも称される、まさに知らざるコーヒーです。

リベリカ豆の起源と到来

コフィア・リベリカというコーヒーの木は、世界でも限られた地域でしか育たず、そのほとんどは東南アジアにあります。フィリピンには、1740年代にメキシコから種を持ち込んだスペイン人修道士によってコーヒー栽培が導入されました。この時、フィリピンはコーヒー生産の中心地となり、さまざまなコーヒーの種類が世界各地からもたらされました。その中にリベリカ種のコーヒーも含まれており、バタンガス州リパの低地に植えられたのが始まりです。

バタンガスで栽培されたバラココーヒー

バタンガスはルソン島の南部に位置し、この地域特有の気候と火山性の土壌はリベリカの木を育てるのに最適であったため、この特別なコーヒーの主要な生産地となりました。名前の「バラコ」は、タガログ語で「野生のブタ」や「強い男」という意味で、コーヒーの力強さと地元のコーヒー農家のたくましさを表しています。

バタンガス州の他の地域にもバラコの栽培が広がり、バタンガス州はコーヒーの名産地として有名になりました。バラコは、1860年代以降、アメリカのサンフランシスコやヨーロッパの一部に輸出され、他のアジアのコーヒー豆の5倍の価格で取引されていました。そして、1876年には隣接するカビテ州でもバラコの栽培が始まりました。

フィリピンのコーヒー産業の隆盛

1880年代にコーヒーのさび病が世界中の農園を荒廃させた後、フィリピンは世界でもトップ4のコーヒー輸出国となりました。しかし、1889年にはコーヒーさび病が島々に広がり、フィリピンのコーヒー産業は崩壊してしまいました。これにより、ほとんどの農家が他の作物へ移行しました。そしてバラコの苗木は数本だけ生き残り、ほとんどがカビテに植えられました。

20世紀半ばになると、コーヒーの需要は再び高まったのですが、バラコは他の品種に比べて栽培が難しいため、復活することはありませんでした。その代わりに、アメリカから輸入されたコーヒーさび病に強い品種を中心に、新しいコーヒー生産の波が生まれました。

現在、バラココーヒーの栽培はバタンガス州が主な産地となっています。栽培には手間と時間がかかるため減少していましたが、国やNGOの支援を受けて再び高品質なコーヒーを生産しようと活動しています。

また、フィリピンでもスペシャルティコーヒーが徐々に注目されており、コーヒー農家は地道な努力を重ね、世界的に認知されるための組合を結成しています。首都マニラではスペシャルティーコーヒーを提供するカフェが複数登場しています。

バラココーヒーの伝統的な淹れ方

淹れ方にはいくつかのバリエーションがありますが、伝統的な方法は、現地で作られた黒砂糖(マスコバド)を使って、ミルクやクリームをほとんど加えずに飲むというものです。まず、ポットややかんで水を沸かし、粗く挽いたバラコ豆をたっぷり加えます。沸騰したら弱火で10分ほど煮て、布で作った濾過器(カツァ)を通してカップやカラフェに注ぎます。出来上がったコーヒーは、濃厚で強く、甘味があります。

バラココーヒーとフィリピンの文化的な意義と象徴性

バラココーヒーは、ただのコーヒー豆ではなく、それを作る方法や飲み方を含めた文化と言えます。バタンガスや他のバラコの産地では、「カペン・バラコ」に関する伝統や文化があり、地元のアイデンティティーや価値観を反映しています。また、フィリピンの文化に深く根付いており、フィリピン人のアイデンティティの象徴となっているのです。フィリピンの国民的英雄であるホセ・リサールや他の革命家たちに愛されたコーヒーであり、彼らの思想や行動に影響を与えたと言われています。また、バラココーヒーの強烈な風味は、フィリピン人の気質や性格に例えられることがあります。例えば「カペン・バラコな男」という言葉は、強くて勇敢な男性を意味します。

また、バラココーヒーは温かさやおもてなし、仲間意識を象徴しており、大切な人たちとのつながりを深め、社交の場や家族の再会、重要なイベントでよく提供されることがあります。フィリピンの人にとって日常的な飲み物であり、朝食や休憩時間に親しまれ、友人や家族との交流や絆を深めるための道具でもあります。バラココーヒーを飲みながら、おしゃべりしたり、相談したり、笑ったりすることで、フィリピン人は心を通わせます。

バラココーヒーの課題と復興

バラココーヒーは、商業的なコーヒーの増加や消費者の好みの変化などの課題に直面していますが、フィリピンのコーヒー業の復活を図ろうとする国やNGOの支援を受けて再び品質の高いコーヒーを生産しようとしています。バラココーヒーの再評価と普及が進み、この貴重なコーヒーの伝統が将来にわたって受け継がれるよう願うばかりです。

まとめ

バラココーヒーは、フィリピンの豊かなコーヒーの歴史と人々の強さを物語るものです。その起源や文化的な象徴が、植民地支配やコーヒー産業の歴史と復興、そしてフィリピン人のアイデンティティに関わる物語を表しています。バラココーヒーを味わうことで、独特な味わいを楽しむだけでなく、フィリピンの精神を称える何世紀も続く伝統の一部になることができます。ぜひあなたもこの知られざるコーヒーを体験してみてください。

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